中~高強度の運動を支える解糖系 解糖系と筋グリコーゲンの役割

医療・健康

投稿日:2024年03月03日

要約
解糖系は、中~高強度の運動におけるエネルギー生産の重要な役割を担います。筋グリコーゲンは、解糖系に供給されるグルコースの主要な源です。解糖系で生成されたピルビン酸は、酸素濃度によって乳酸とATPのどちらかに変換されます。

目次

はじめに

スポーツ医学と生化学において、解糖系はエネルギー代謝の重要な鍵を握ります。本記事では、医学生やスポーツトレーナー向けに、解糖系と筋グリコーゲンの役割を、化学式を用いて詳細に解説していきます。

解糖系の概要

解糖系は、筋肉中のグリコーゲンや血中のグルコースを分解してATPを産生するシステムです。中~高強度の運動において重要な役割を果たし、以下の10段階の反応で構成されます。

グルコース+2Pi+2ADP → 2乳酸塩+2ATP+H2O

    グルコース(Glc)

  1. ↓ ←ATP
  2. グルコース 6-リン酸(G-6-P)

  3. ↓ ←ATP
  4. フルクトース 6-リン酸(F-6-P)

  5. フルクトース 1,6-ビスリン酸(FBP)

  6. ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)

  7. グリセルアルデヒド 3-リン酸(GAP)

  8. 1,3-ビスホスホグリセリン酸(BPG)

  9. ↓ → 2ATP
  10. 3-ホスホグリセリン酸(3-PG)

  11. 2-ホスホグリセリン酸(2-PG)

  12. ↓ → H2O
  13. ホスホエノールピルビン酸(PEP)

  14. ↓ → 2ATP
  15. ピルビン酸(Pyr)

  1. 細胞に取り込まれたグルコースはすぐに6-リン酸化される。ATP消費。
  2. グルコース 6-リン酸(G-6-P)はフルクトース 6-リン酸(F-6-P)に異性化される。
  3. F-6-Pはさらに二リン酸に変えられる。ATP消費。
  4. 生じたフルクトース 1,6-ビスリン酸(FBP)はアルドール開裂により,ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)とグリセルアルデヒド 3-リン酸(GAP)になる。
  5. DHAPはGAPに異性化される。④で分かれた2つの経路がこれで1つになる。
  6. 無機リン酸を利用してGAPを1,3-ビスホスホグリセリン酸(BPG)に変える。この段階はNAD+を消費する。
  7. BPGの1位のリン酸基をADPに転移し、ATPを合成(基質レベルのリン酸化)するとともに、3-ホスホグリセリン酸(3-PG)に変える。
  8. 3-PGを異性化する。
  9. 生じた2-ホスホグリセリン酸(2-PG)から,脱水反応により高エネルギー化合物であるホスホエノールピルビン酸(PEP)をつくる。
  10. PEPの2位のリン酸基をADPに転移し、ATPを合成(基質レベルのリン酸化)する。エノール型のピルビン酸は互変異性によりひとりでにピルビン酸になる。

エネルギー収支

解糖系では、1分子のグルコースから2分子のATPを産生できます。ただし、グルコースが細胞内に入るために1ATPを消費するため、実質的には1分子のグルコースから2ATPを産生します。一方、グリコーゲンから分解される場合は、細胞内ですでに存在するため、1ATPを消費せず、3ATPを産生することができます。

  • グルコースの場合:
    • 1分子あたり3ATPを産生
    • 1.~3.過程で2ATPを消費
    • 4.~6.過程で4ATPを産生
  • グリコーゲンの場合:
    • 1分子あたり3ATPを産生
    • 1.過程でATPを消費しない

ホスホグリセルアルデヒドからホスホグリセリン酸への変換には、NAD+が必要です。しかし、嫌気的条件下では、NAD+はNADHに変換されて失われてしまいます。このままでは、解糖系が停止してしまいます。

そこで、ピルビン酸がNADHから電子を受け取り、NAD+と乳酸に変換されます。この反応によって、NAD+が再生され、解糖系を継続させることができます。

ピルビン酸

解糖系で生成されたピルビン酸は、酸素不足の状態(嫌気的呼吸)ではNADH+Hと反応して乳酸に変換されます。この嫌気的呼吸で得られるATPは限られており、激しい運動では30秒前後しか持続できません。筋中の乳酸や水素イオン濃度(H+)の上昇は、疲労の原因となります。

酸素が十分に供給される好気的な状態では、ピルビン酸は乳酸にならず、ミトコンドリアへ輸送され、クエン酸回路(TCA回路、クレブス酸回路)に入ります。クエン酸回路では、解糖系よりも効率的にATPを産生することができます。

  • 低酸素状態(嫌気的呼吸)
    • NADH+Hと反応して乳酸に変換
    • 激しい運動では約30秒間持続
    • 筋中の乳酸や水素イオン濃度(H+)の上昇が疲労を引き起こす
  • 高酸素状態(好気的呼吸)
    • 乳酸にならず、ミトコンドリアへ輸送
    • クエン酸回路(TCA回路、クレブス酸回路)に入り、より多くのATPを産生

コリ回路

嫌気的条件下で生成された乳酸は、血液中に放出され肝臓へと運ばれます。肝臓では、乳酸が糖新生によって再びグルコースに変換されます。このグルコースは、血液中に放出され、筋肉に戻ってきます。

このグルコースと乳酸の循環を、コリ回路と言います。コリ回路は、嫌気的条件下でもエネルギー産生を継続させるために重要な役割を果たします。

乳酸の蓄積と疲労

乳酸が過剰に筋肉に蓄積すると、組織のpHを低下させます。これが、「疲れ」や「こり」といった現象を引き起こす原因となります。また、血液中の乳酸濃度が高くなると、血液の緩衝力を超え、pHが低下します。これが、「乳酸アシドーシス」と呼ばれる状態です。

コリ回路は、これらの問題を解消するための仕組みです。肝臓と筋肉が連携することで、乳酸を効率的に処理し、エネルギー産生に利用することができます。

クエン酸回路と有酸素運動

クエン酸回路は、解糖系で生成されたピルビン酸をさらに分解し、ATPを産生するシステムです。このシステムは、長時間運動に必要なエネルギーを供給します。

まとめ

解糖系は、中~高強度の運動におけるエネルギー生産の重要な役割を担います。筋グリコーゲンは、解糖系に供給されるグルコースの主要な源です。解糖系で生成されたピルビン酸は、酸素濃度によって乳酸とATPのどちらかに変換されます。

激しい短期間の筋肉の運動では、TCA回路よりも迅速にエネルギーを供給できるクレアチンリン酸と解糖が利用されます。筋肉中に蓄積された乳酸は、運動後に肝臓で処理され、エネルギー源として再利用されます。

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ひがしむら整体院

東村哲男

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